今必要なのは集団的自衛権?

前回、「個別的自衛権」「集団的自衛権」「集団安全保障」の違いについて確認しました。
こちら。(色のついているところをクリックするとリンク先に飛びます)
今回は、今議論されていて閣議決定に至った集団的自衛権について考えて行きます。
参考文献として、内閣官房のHPに、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答というページがありますので、これを使います。
24ある問いは、「集団的自衛権とは何か?」ということから始まっています。これについては、前回の投稿もご参照ください。
続いて、
【問2】 なぜ、今、集団的自衛権を容認しなければならないのか?

【答】 今回の閣議決定は、我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増す中、我が国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るため、すなわち我が国を防衛するために、やむを得ない自衛の措置として、必要最小限の武力の行使を認めるものです。

というものがあります。
これを読む限り、従来の「個別的自衛権」で対応できる問題ではないかと思われます(前回参照)。
安倍首相は、
「総理大臣はいかなる事態にあっても、国民の命を守る責任があるはずだ。人々の幸せを願ってつくられた憲法がこうした事態にあって国民の命を守る責任を放棄せよと言っているとは考えられない」
と言った発言に代表されるように、盛んに国を守るということを強調し、自衛権が日本国憲法で認められていないかのような表現をされます。
ですが、実際は尖閣諸島や竹島という、日本の領土であると認められる地域に武力攻撃が及んだ際、上の【答】の表現を借りれば、「我が国を防衛するために、やむを得ない自衛の措置として、必要最小限の武力の行使」が可能です。
そこに集団的自衛権を持ち出す必要はありません。

また、この問いに関連して、
「海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を同盟国の米国の船が救助・輸送している時、日本近海において攻撃を受けるかもしれません。」
という投げかけが、政府からされます。ちなみに上記の文章は、自民党のHPにある、「【Jimin NEWS】No.173 安全保障法制整備のための閣議決定」から引用しました。全文はこちら(PDFです)

この仮定は、仮定そのものが現実に起こり得るのかどうか、という点から既に疑問も出ているところです。仮に海外で紛争が発生し、日本人が避難しなければならなくなった時、どうして米国の船が救助に赴くのか。しかも、飛行機ではなく船で。そして、そもそも日本政府は何故自国民に対して救助の手を先に差し伸べられないのか。在外公館は何の為に存在するのか。
何重にも日本政府の失態が重なった挙句の果てに上記のような状態に至り、そのような政府が自衛隊を適切なタイミングで運用できるのか。色々と謎は深まります。

また、「同盟国であるアメリカが血を流しているのに、日本は何もしなくていいのか?」という意見もあります。
しかしながら、集団的自衛権という権利と、条約による相互援助的な協力関係(あるいは義務)というものは、別の問題と見て良いかと思います。
日米安全保障条約に関して言えば、日本国憲法が集団的自衛権の行使を認めないことを前提に双方の合意の上で締結されているものなので、日本は日本のできる範囲のことで応援をすれば何の問題もありません。

「締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。」日米安保条約3条)

これを読む限りでも、仮にアメリカが世界中で戦争を起こしたとしても、日本が共に参戦する、という必要性はありません。

さて、24ある問いの内、憲法解釈や平和主義に関する問いが多くあります。非常に重要な議論ですが、今回は集団的自衛権関連の具体的な部分に焦点をあてるため、その部分は別の機会に譲ることにします。

【問20】 今回の閣議決定により、米国の戦争に巻き込まれるようになるのではないか?

【答】 憲法上許されるのは、あくまで我が国の存立を全うし、国民の命を守るための自衛の措置だけです。もとより、外交努力による解決を最後まで重ねていく方針は今後も揺らぎません。万が一の事態での自衛の措置を十分にしておくことで、却って紛争も予防され、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。

理論上は、集団的自衛権によってアメリカの戦争に巻き込まれる、ということは考えにくいのは確かです。そもそもアメリカに武力攻撃をしかけようとする国の存在というのが考えにくいということと、それによって「自衛のための戦争」というのが起きにくい、ということ。ですが、「テロとの戦争」という概念が生まれたり、自衛権の解釈を広く取ったりする中で、「リスクはなくなっていきます」とも断言できないところがあります。
集団的自衛権にそもそも内在するリスクとして、解釈の仕方によって濫用されやすいということと、戦争の規模が大きくなりやすいということが考えられます。戦争の規模については、端的に言えば世界大戦を引き起こしかねないということまで考えられます。
A国がB国に攻め込まれる。A国の同盟国であるC国が参戦してB国と戦う。今度はB国が攻撃を受けたとして、その同盟国であるD国とE国が介入する。更に今度はC国と密接な関係のF国が・・・・と際限ない広がりを見せる、という可能性は存在するからです。

このような悲劇を防ぐために生まれたものが、前回も述べた集団安全保障なのです。しかしながら、国際連合が大国の意向によって機能不全を起こす可能性のある存在だというリスクもやはりあるのですが。
そのリスクの改善にチャレンジする、というのも「平和国家」の役割かもしれません。

【問21】 今回の閣議決定により、必要ない軋轢を生み、戦争になるのではないか?

【答】 総理や大臣が、世界を広く訪問して我が国の考え方を説明し、多くの国々から理解と支持を得ています。万が一の事態での自衛の措置を十分にしておくことで、かえって紛争も予防され、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。

抑止力としての軍備、という考え方で前の問いと同じような回答です。戦争に巻き込まれるかどうかは別として、海外で活動するNPO、NGOや、イラクで活動経験のある友人達の話を総合すると、海外で日本人が攻撃の対象になるリスクは高まるようです。

【問22】 今回の閣議決定によっても、結局戦争を起こそうとする国を止められないのではないか?

【答】 日本自身が万全の備えをし、日米間の安全保障・防衛協力を強化することで、日本に対して戦争を仕掛けようとする企みをくじく力、すなわち抑止力が強化されます。閣議決定を受けた法案を、国会で審議、成立を頂くことで、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。

同じような問いと答えが続きますが、抑止力を強化して戦争のリスクを減らすという考えは、前回も書きましたが「勢力均衡」(balance of power)という、19世紀から20世紀初頭にかけての考え方でもあります。それによって大失敗をした以上、リスクがなくなるとは断言できるものでもありません。

【問23】 武器輸出の緩和に続いて今回の閣議決定を行い、軍国主義へ突き進んでいるのではないか?

【答】 今回の閣議決定は戦争への道を開くものではありません。むしろ、日本の防衛のための備えを万全にすることで、日本に戦争を仕掛けようとする企みをくじく。つまり抑止力を高め、日本が戦争に巻き込まれるリスクがなくなっていくと考えます。

軍国主義に突き進むかどうかは別として、武器輸出の緩和と集団的自衛権の行使容認という組み合わせは、確実に「平和国家」というイメージからはマイナスの要素となります。既に日本政府は、イスラエルに対しての武器輸出は可能だという見解を出しています。パレスチナへの攻撃があっても「紛争当事国」ではない、ということであるとすれば、パレスチナ攻撃に日本が加担していると取られても不思議ではありません。

このように考えてくると、日本にこれから必要なのは、集団的自衛権ではなく、集団安全保障の更なる発展ではないかと思います。それも軍事的な分野ではなく、非軍事的な分野での活動を中心に。平和維持活動や災害救助等の分野で活躍できること、日本にしかできない技術的・経済的な分野も多いかと思います。
これまで機能不全に陥りがちだった安全保障理事会の根本に対するアプローチも、外交的な手腕が必要とされることでしょうが、チャレンジできれば良いのではないかと思います。
そのような長い道のりを必要とする平和へのアプローチと、その間の万一に備えては、これまで通りの個別的自衛権による対応が両立するのが今の日本国憲法であると考えられます。

追記
国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答の最後に、「自衛の措置としての武力の行使の新三要件」があります。
その中に、武力行使の要件として我が国または我が国と密接な関係の国に「武力攻撃が発生」したこと、というのがあります。
これが、いきなり「攻撃が発生する明白な危険が切迫している」場合でも武力行使を可能とするということになりそうです。
<集団的自衛権>「危険切迫」で行使可能 武力事態法改正へ
7月12日(毎日新聞)

これは、前回の投稿でも述べたとおり、国連憲章でも日本国憲法でも認められているとは言い難い「先制的自衛権」ということになります。少なくとも、日本国憲法には違反します。

参考文献:
『現代国際法講義』有斐閣
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答
自民党HP
集団的自衛権の法的性質とその発達』 松葉真美(PDF)

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春風~はるかぜ~

Author:春風~はるかぜ~
春風珈琲。コーヒー好き。コーヒーが生まれる場所を見たくてエクアドルのコーヒー生産者に会いに行き、ご近所の生産者のことが気になり始める。フェアトレードって途上国だけのことなのか。色んなところでコーヒーを淹れて、ゆるやかな時間を作ります。出会った人達の商品を紹介中。歴史と京都と町家も好きで、今熊野で町家暮らし。

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