「自衛権」について考える

集団的自衛権行使容認の閣議決定前後から、「集団的自衛権」に注目が集まっています。でも、果たしてどれくらいの人が本来の意味を理解しているのか、やや怪しいところがあります。
「個別的自衛権」「集団的自衛権」「集団安全保障」辺りが混在して、意味を取り違えて、議論が混乱している様相が見て取れます。

そんなわけで、春風なりに解説してみました。
個別的自衛権 right of self-defense

国連憲章以前から、国家の重大な利益が侵害される場合に武力を行使する根拠として広く援用されてきました。色々ないきさつを経て、この自衛権を主張するためには、「危険が差し迫って圧倒的」であり、「他に手段を選ぶ余裕もないほど切迫」していなければならない(必要性)、とされ、更に「選択された措置が自衛としての限度内のものでなければならない」とされました(均衡性)。これが、慣習国際法として定着して行きます。

国連憲章では、武力の行使を禁止しています(2条4項)。その例外として、安全保障理事会が必要な措置を取るまでの間、自衛権の行使を認めています(51条)。憲章の文言では「武力攻撃が発生した場合」に自衛権の行使が認められるとあります。これは、19世紀の自衛権が、「国家の重大な利益に対する急迫な危険」があれば行使を認めたのに対して、より具体的に範囲を限定しています。

つまり、相手が危険な存在だからミサイル基地をつぶそう、とかいう「先制的自衛」と呼ばれたりするものは、普通に考えると自衛権からは逸脱しています。あくまでも、上記の「必要性」と「均衡性」の範囲内での自衛を認めるのが個別的自衛権で、これは現行の日本国憲法でも否定されてはいません。

集団的自衛権 right of collective self-defense

個別的自衛権と並んで、国連憲章では集団的自衛権というものが規定されています(51条)。一国に対する武力攻撃に、他国も共同して反撃することを認めるものです。どういう場合に集団的自衛権の行使と認められるかについては、国際司法裁判所の判例があります。それは、個別的自衛権の項で挙げた「必要性」と「均衡性」に加えて、「武力攻撃を受けた国家が、その旨の表明を行うこと」と、「攻撃を受けた国からの援助要請があること」の4点です。

これを見ると、一つ思い浮かぶ議論があります。「集団的自衛権の行使が認められていればアメリカによるイラク戦争に自衛隊は参加していたのか」という議論です。実は、集団的自衛権を上記のように解釈した場合、アメリカはそもそもイラクからの武力攻撃を受けておらず、当然ながらその被害の表明も援助の要請も無かったので、集団的自衛権の対象外なのです(アメリカの個別的自衛権すら要件を満たしません)。となれば、当然自衛隊はイラク戦争に関わりません。

しかしながら、現在の議論の混乱の一つに、もう一つの要素が入り込みます。

集団安全保障 collective security

集団安全保障制度は、国際連合の前身である国際連盟の中で初めに試みられたものです。対立関係にある国を一つの集団(例えば国連)に取り込み、その集団の中の一国が他国を武力攻撃した時、その武力攻撃が集団の構成国全ての共通利益の侵害であると判断して、加害国に集団的な制裁を加えることです。それによって、集団を構成する国全体の安全を相互に保証するものなのです。
この「集団安全保障」は「集団的自衛権」と混同されやすいのですが、上の文章と集団的自衛権の項をよく読み比べると違います。
A国がB国に攻め込まれて助けを求める。それを同盟国であるC国が受けて武力を持って助けに行く、というのが集団的自衛権。集団安全保障の方は、それぞれの国が個別に判断するのではなく、より多くの国の意思を体現した団体(例えば国連の安全保障理事会)の判断の下、軍事的な方法だけでなく非軍事的方法での制裁も検討する、ということになります。

集団安全保障という概念が生まれる以前は、「勢力均衡」(balance of power)という考え方が主流でした。この考え方は、簡単に言うと仮想敵国を作って他国と同盟して軍拡して・・・という流れで安全保障を図るというものです。それでは結局軍拡競争によって緊張関係が大きくなるばかりだということで、第1次世界大戦後に集団安全保障という考え方が生まれました。
集団的自衛権は、この19世紀的な「勢力均衡」という考え方の側に立つものだと考えられます。
国際連盟時代は色々試行錯誤してうまくいかなかったりした集団安全保障を、第2次世界大戦後、国連憲章でもう少し発展させようということになりました。

武力行使を禁じた国連憲章は、違反した加盟国に対する制裁の発動の権限を安全保障理事会に与えます。
具体的には、
・平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為が存在するかどうかを決定する(31条)

・その決定は全ての国連加盟国に対して拘束力を持つ(25条)

・「経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含む」措置を加盟国に要請することができる(41条)

・上の措置が不十分と認められたり、または不十分なことが判明したりすれば、「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる」。(42条)
と規定されています。

「国連軍」というものが実際には存在しなかったり、安全保障理事会の常任理事国である五大国に「拒否権」が存在する為に、しばしば無力のように見えることもあります。ですが、集団的な安全保障という考え方が存在して、それが集団的自衛権とはまた別のものだということを明確にするために、詳述しました。
そして、この集団安全保障という考え方には、軍事的な制裁方法だけではなく、非軍事的な形で、国際社会と結束して武力を行使する国に対して制裁を加える手段がある、ということも重ねて書いておきます。

大きく3つあげたこれらの用語の理解が、集団的自衛権に賛成する人も反対する人も、これを推し進める政府関係者にすら足りていないのではないか、と考え、まずは用語解説的に書いてみました。
分かりやすく書いたつもりが、人によってはややこしいかもしれませんし、別の人にとっては物足りないかもしれません。

参考文献:『現代国際法講義』有斐閣、『国連憲章テキスト』国際連合広報センター

また時間があれば、何がどのように混乱しているのかを、私見も交えつつ書いてみようかとは思います。
今必要なのは自衛権?に続く。
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春風~はるかぜ~

Author:春風~はるかぜ~
春風珈琲。コーヒー好き。コーヒーが生まれる場所を見たくてエクアドルのコーヒー生産者に会いに行き、ご近所の生産者のことが気になり始める。フェアトレードって途上国だけのことなのか。色んなところでコーヒーを淹れて、ゆるやかな時間を作ります。出会った人達の商品を紹介中。歴史と京都と町家も好きで、今熊野で町家暮らし。

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